2024/03

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草と草 虫と虫 泥と泥 それらの生まれる光と闇とで
詩と死は言葉そのもの 太陽がごろごろと転がると 激
しい音楽 緑色の火炎が山の野原を覆い尽くし 草は踊
り狂うぞ
    !
    春のエレキギタアは燃えようとする 芽を震わす
薔薇の心 そこから虫が飛ぶ まだ 飛ばない 空が踊
る イノシシが山そのものから生まれて 草だらけのロ
ックンロオルだ
        !
        高笑いする熊 狸の腹を叩きすぎる 馬の
足の裏は笑うな 割れたコカコーラのビンを蹴つちまえ
                                !
空気のオオトバイと風のスポオツカアとが何億もあの丘
で衝突する 何億もの無人の現場が緑色に燃え 誰もい
ない 爽やかな草いきれだ ふざけるなロックンロオル
                                !
緑色の牛が意味を食い散らかしながら狂つている 合唱
する緑色の鬼 山道は消えた 僕らに新しい歯が生える
モモンガアの牙になるぞ 騒々しいぞ
                      !
                      虫の巣を蹴飛ばせば
弾ける 木の頭脳 雲は刃物よりも尖れ 聞こえない声
は転ぶな 流れない血よ山を越えろ 無言のエイトビイ
トは木星の輪に なつちゃえよ
                 !
                 桃色の兎は 春に追われて
死ぬ 金色の虎は春に噛まれて死ぬ 詩の角の生えた赤
白の鹿は真緑色に染まり死ぬ そんな噂が何億も死の谷
を飛び跳ねろ
       !
       ふもとで光る春の詩になる 滅茶苦茶な命は
若葉になる その先が空を傷だらけにする 怒鳴りつつ
転がる緑色の雲 ああ 春山の静寂は何処にあるのか?
 和合亮一


東京新聞 '03/2/5

春の詩だけどもご紹介。
春がロックとは!唸ったね〜。詩人って目の付け所が違う♪


人間には
行方不明の時間が必要です
なぜかわからないけれど
そんなふうに囁くものがあるのです

三十分であれ 一時間であれ
ポワンと一人
なにものからも離れて
うたたねにしろ
瞑想にしろ
不埒なことをいたすにしろ

遠野物語の寒戸の婆のような
ながい不明は困るけれど
ふっと自分の存在を掻き消す時間は必要です

所在 所業 時間帯
日々アリバイを作るいわれもないのに
着信音が鳴れば
ただちに携帯を取る
道を歩いているときも
バスや電車の中でさえ
<すぐに戻れ>や<今 どこ?>に
答えるために

遭難のとき助かる率は高いだろうが
電池が切れていたり圏外であったりすれば
絶望は更に深まるだろう
シャツ一枚 打ち振るよりも

わたしは家に居てさえ
ときどき行方不明になる
ベルが鳴っても出ない
電話が鳴っても出ない
今は居ないのです

目には見えないけれど
この世のいたる所に
透明な回転ドアが設置されている
無気味でもあり 素敵でもある 回転ドア
うっかり押したり
あるいは
不意に吸いこまれたり
一回転すれば あっという間に
あの世へとさまよい出る仕掛け
さすれば
もはや完全なる行方不明
残された一つの愉しみでもあって
その折は
あらゆる約束ごとも
すべては
チャラよ
 茨木のり子


茨木のり子集 言の葉〈3〉
茨木のり子集 言の葉〈3〉
茨木 のり子

まったくそのとーり。
よく行方不明になってます。


愛する人の亡骸が焼かれる時、
棺の周りで取り乱す人も一時間後には
−この骨はどこの骨ですか?
と聞く余裕を取り戻す。
自分が思っているより心の容量は大きい。
悲しみの半分は
今ある日常が変わることの憂鬱。
あす早起きしなければならない辛さ。
あらためて相手や仕事を
探さなければならない面倒。

君も私も毒なしにはいられない身だ。
記憶を曖昧にしたり、めまいを覚えたり
理性をなくしたり、早死にを促したり
しかも、一回限りでは済まないものばかり
好んで体に取り込むところをみると
木から落ちたりんごのように
発酵や腐敗を急ぐ理由があるのだろう。
毒を食っても食わなくても
行き着く先はみな同じ黄泉の国。
そこには貧富の差はなく、万人が平等で
全ての自由が認められているがゆえ退屈で
先にそこに着いたものは後悔するらしい。
 島田雅彦


現代詩手帖 '03/12月号

ドキッとした詩。


ただ目の前のシグナルを
青のシグナルを見つめて
脇見をしないで
歩いた
どこへ行くのか考えたことも
なかった
青をみつめて
青だけをみつめて
わたしは歩いていった

どこが悪かったのだ
みんなどこへ消えたのだ
 杉山平一


こんな気分。

青をめざして
杉山 平一


書かなくてもいいのに
こうして
書いて

鉛色の
記憶の中の
凪いだ海

ひとりのヒトに
話すかわりに
書いて

小さな
船着き場の
濡れた砂

言葉ではないものが
胸に
もたれて

岬へと
つづく
踏みつけ道
 谷川俊太郎


話したい。話せない。気持ち。

minimal
谷川 俊太郎


もしも!きまったかずの、字も、意図 ものたち、
文句わきまえながら、
ヒトリシズカ咲く!気まずく拘わる意志の小声に、
かすかに!
エゴ このしいる和歌か、葛まき!草か、ずしりと、
ひらがな絵巻、
和訓持ち、うたの基、文字の図か、たつまき!
も詩も!

(さかさによんでも「もしも!きまったかずの……」)
 藤井貞和


文藝春秋 '99/1月号

久しぶりの詩の紹介。回文って難しいけど、作るの楽しいですよね。


ペン先は光るし
ヒュッヒュッと動いたり
止まったり
それも面白いし
何よりも 白い紙の中から
黒いものが
ピョコピョコととび出してくるのが
ネコにとっては
たまらなく面白いらしい
私が原稿用紙に文字をうめていくと
右側から手が伸びてきて
書いたばかりの文字をひっかくやつがいる
ネコは
新しいものには
なんにでも関心を示すというが
考えてみれば
金釘流であれ、なんであれ
目の下にひろがっているのは
私というものが書いて
いま生まれたばかりの新しい文字の列だ
ネコにしてみれば
そんな不思議なことを
私たちはしているらしい
面白いよ
もっと不思議がりなさいよ
ネコたちはそう人間に言っているみたいだ
 大橋政人


春夏猫冬
春夏猫冬
大橋 政人


じぶんが
やっと
合体しました
分離してまた合体するまで
二、三十年かかった計算です
ばらばらばらばらしてたのです

わたしはどもりでした
あのころまでは
フィットしてたのです
そのあと
わりとうまくやりました

社会生活
流暢にしゃべり
仲よくわらいました

そのうちだんだん分離したんでしょうね
ドレッシングみたいに

さいきん
とてもこわいのです とくにせまいところが

また合体できたんでしょうか
DNAかRNAの二重螺旋の
合鍵ゲームの
鍵型因子が
ぴたり

はまって
いい気分で
不安で
元気です
 宮内喜美子


わたしはどこにも行きはしない
わたしはどこにも行きはしない
宮内 喜美子


コトハ
コト
ナニハ
サテ
《オシマヒ》トイウヒトガ
ヤッテクル
シッテルヨウナ
ミタヨウナ
ナントハナシニ
サムイヒト
コトハ
コト
トキモ
トキ
《オシマヒ》トイウヒトガ
ヤッテクル
 山田今次


山田今次全詩集
山田今次全詩集
『山田今次全詩集』刊行会


音楽のようになりたい
音楽のようにからだから心への迷路を
やすやすとたどりたい
音楽のようにからだをかき乱しながら
心を安らぎにみちびき
音楽のように時間を抜け出して
ぽっかり晴れ渡った広い野原に出たい
空に舞う翼と羽根のある生きものたち
地に匍う沢山の足のある生きものたち
遠い山なみがまぶしすぎるなら
えたいの知れぬ霧のようにたちこめ
睫毛にひとつぶの涙となってとどまり
音楽のように許し
音楽のように許されたい
音楽のように死すべきからだを抱きとめ
心を空へ放してやりたい
音楽のようになりたい
 谷川俊太郎


智慧の実を食べよう。
智慧の実を食べよう。
吉本 隆明, 谷川 俊太郎, 藤田 元司, 詫摩 武俊, 小野田 寛郎, 糸井 重里

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